こんにちは。臨床心理士として20年、
「幸せな結婚・夫婦・家族カウンセリング」の谷地森久美子です。
今回は、大事な人との別れは、なぜ悲しいのかについて、
世界的なロングセラーでもあるサン=テグジュペリの
『星の王子さま』を題材に考えていきます。
失恋・離婚をした方、家族および家族の一員でもあるペットを亡くした方など、
大事な存在を失った体験(喪失体験)がある、
すべての方に繋がるテーマです。
それでは、はじめていきましょう。
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失恋、離婚、家族との別離など、
大事な存在を失う体験に遭遇すると、
これから先、自分ひとりでは、
生きている意味がないように感じてしまう、
ということ、ありますよね。
大事なひとや存在を失った時、
私たちは、なぜ悲しいのでしょうか。
そして、いつまでも忘れられず、
ひきずってしまうのは、なぜでしょうか。
さて今回は『星の王子さま』を題材に、
「悲しみの秘密」について考えていきます。
この物語は、みなさんの中で、ご存じの方も
多いかと思います。
星の王子さまと言えば、あのフレーズ、
「大事な(肝心な)ことは、目には見えない――」。
そのフレーズが出てくる、王子さまとキツネの話を、
以下に紹介しながら、みなさんと共に
テーマを深めていきたいと思います。
☆ ☆ ☆
星の王子さまは、地球に降りてきて最初は、
誰にも会えないため、悲しいし寂しくなります。
そしてキツネに出会い、本当に悲しいから、
遊んでほしいと伝えます。
するとキツネは、こういうのです。
もし、友だちになりたいならば、
<飼いならす>こと――と。
飼いならすとは、どういうことでしょう?
ふたりのあいだで、問答が続きます。
飼いならすとは、キツネいわく、
今、この段階では、お互い、
ほかの十万もの男の子/キツネと同じだし、
別にいなくなってもかまわないのだけれど、
飼いならすことによって、自分たちは、
お互いに離れてはいられなくなる、
「あんたは、おれにとって、この世で
たったひとりのひとになるし、
おれは、あんたにとって、
かけがえのないものになるんだ」。
そして、さらにキツネは、
忙しそうにしている王子にむかって、
人間は、今や、何もわかる暇がない、
互いに唯一の関係にならないと、
何もわかりはしないのだ、
そう王子に説くのでした。
そんなやりとりをしているうちに、
次第に、ふたりは仲良しになっていきます。
そして――、
王子さまが、旅立つ時が近づいてきました。
キツネが「ああ!……きっと、おれ、泣いちゃうよ」
といいます。それに対し、王子さまは、
きみのせいだ、
こうなるなら、親しくなっても
何もいいことはなかったじゃないか、
と、こぼし始めるのです。
すると、キツネは、
いや(何もないことはない)、あるのだ、
自分は、王子さまがいなくなっても、
黄金の麦の穂をみるたび、
王子さまの髪を連想し、王子さまを思い出す、
と答えます。
いなくなれば悲しいけれど、でも思い出があれば
すべてを失うわけではない、ということですね。
そしてキツネから、旅立つ王子への、
「秘密のプレゼント」して、
『こころで見なくては、ものごとはよく見えない。
肝心なことは目では見えない――』、
という、みなさんもご存じの、
有名なフレーズが出てくるのです。
☆ ☆ ☆
『星の王子さま』は、全編、
人生や愛に関するメッセージが盛り込まれている
美しい、詩的な物語です。
キツネの話を読み進めながら、みなさんの中には、
今回のテーマの答えが、なんとなく、
わかってきた方もいらっしゃるかもしれません。
愛するひとを失うと、なぜ悲しいのか――。
その答えは、
まるで禅の公案のようでもありますが、
「愛があるから」、
「愛している」から、なのです!
そして、
「悲しむことは、悪いことではない」、
ということも、この物語では示唆しています。
なぜなら、相手と自分とのあいだに
「思い出」が残っているからです。
その思い出が単なる記憶ではなく、
いつまでも心に残るような質になるには、
幾つか条件があると、私は考えます。
物語で、キツネがそれとなく王子さまに
伝えていることでもあるのですが、
それは、
こころを遣い、手間暇かけて、
互いに関わり合いながら、
他では、かえようがない、
唯一無二の、関係になること。
そういう関係だからこそ、相手を失っても
自分の心の中に「思い出」が残るのです。
そういう関係性においては、
出会わなければよかったと後悔して、
むなしくなることはないのです。
仮にあなたが、
悲しみに包まれて、涙が止まらないとしても、
ふたりのあいだで創った、
心の中に今でも確かに在る思い出を、
思い出せばよいのです。
私は、このキツネの話、
私たちが、結婚する/しないに関わらず、
特定の相手と、関係を育み続けることの大切さ、
そのエッセンスが見事に盛り込まれていると
感じています。
同時に、家族や大事な人とのつながりを
見失いかけている時の、ヒントにもなる話です。
私たちは、年齢を重ねていくほど、
たちどまることが必要な時でさえも、
日々の忙しさにかまけて、
走り続けてしまうことがあります。
そして気がついた時には、
取り返しがつかないほど、ずいぶんと時が過ぎ、
茫然としてしまうことさえ、あります。
そして、自分が体験したと思っていることが、
本当に、あったのか、
どういうことだったのか、
振り返ると、夢のような、はかない記憶…。
そんなことが長い人生では、あるものです。
『星の王子さま』の中の、
キツネが、黄金の麦の穂を見ると、
同じ色をした王子さまの髪を連想し、そして、
王子さまを、こころの中で鮮明に思い出す…、
このような、情緒・感情を伴う記憶は、
確かな相手の存在あって(在って)こそ、
成り立つことです。
人生という時の流れの中で、
膨大な情報に埋もれず、
ふと思い出すことがあるとしたら、
このような特定の誰かとの、
こころ通い合わせた体験・記憶・思い出
ではないかと思うのです。
そして互いに、思いや感情を
投げかけ合い、共鳴しあいながら、
そんな質の思い出を相手と共に創り続けることが、
私は、ひとが生きていく上での支えとなり、
人生の目的のひとつとなるのではないか、と思うのです。
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