こんにちは。臨床心理士として20年、
「幸せな結婚・夫婦・家族カウンセリング」の谷地森久美子です。
数年前にドラマで話題になった
上戸彩さん主演の『昼顔』。
映画化されたときのキャッチコピーは
「あなたに触れた瞬間、世界は静かに崩れだす」。
私たちは、いけないと思いながら、
なぜ恋に落ちてしまうのでしょうか。
今回は、「The恋愛/不倫」。
人生中盤以降の恋愛、
特に不倫は、なぜ起きるのか。
そしてその状況になった時、短絡的・一面的にならず、
どのような在り方であれば、経験を糧とできるのか。
これらについて、ユング心理学の立場から考えていきます。
それでは、はじめていきましょう。
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わかっていながら、どうしていけない恋をしてしまうの…?
今回は、不倫が起きる深層心理について、
ユング心理学の立場から、考えていきます。
☆ ☆ ☆
私たちは、人生の中で、周囲から期待されるほど、
それに応じた態度(ペルソナ)を優先させた生き方を
してしまいます。
その結果、「こうであらねば」「こうすべき」
などといった考え方に偏りがちです。
でも、この生き方・考え方に偏ると、
鎧で身を固めたかのようで、
そのひと本来の素朴さ、あたたかさ、
柔らかさなどが失われていきます。
あるいは、外側だけにあまりにもエネルギーが使われ、
その分、自分の内側に関心が向けられなくなることも
珍しいことではありません。
この状態は、こころ全体から眺めると一面的。
ユングは、私たちのこころには、
自分まるごとを生きようとする、
「全体性を目指そうとする働きがある」と考えました。
“こころの全体性を目指す”、とはどういうことでしょうか。
私たちの人生において、
先に述べたペルソナを創りあげ完成させること、
これが人生の目標・意味である、ととらえている人も
少なくないかもしれません。
つまり、「〇〇学校、〇〇会社に入る」「資格をとる」
「結婚する」「家族をつくる」「仕事で業績を積む」
「社会的ポジションを確立する」など、
ある意味、“(形としてとらえやすい)達成”を
積み重ねることが、人生であると、とらえる考え方です。
しかし、ユングは、“ペルソナ(外なる自分)”創りは、
人生前半から半ば頃(30代から40代頃)までの
課題であって、それだけでは不充分だと考えました。
そこから「自分の内面、つまり無意識とどう関わっていくか」
=(「これが自分」という枠を拡大していくこと)が、
人生中盤以降の課題であるとしました。
人生半ば頃までの課題=ペルソナ創り、
(具体的なハードルを乗り越えていく試み)は
それ自体、努力が必要な過程ではありますが、
成果がわかりやすいため、達成感が
実感として得られます。
そして途中過程で困難が続いても最終的には
「努力の甲斐があった」と肯定的にとらえることが可能です。
一方、いざ自分の内面や無意識と関わる…となると、
難しさを感じる大人がとても多いのです。
自分の内面を見つめること自体に
興味が見いだせないひとにとっては、
あいまいさ・不確かさが付きまとい、
「これって、どんな意味があるの?」と、
面倒に感じ、途中で挫折する。
その作業は、これまで必死で創ってきた自分(ペルソナ)
――それは、かけがえのない自分の一部ですが、
それを揺るがし、脅かすため、とても恐怖に感じてしまうのです。
世の中の多くのひとは、
ペルソナ自体が、自分自身、自分のすべてだと思っているため、
「未知の自分」(影や内なる異性)と直面することは、
それ自体が大きな変化で抵抗が生じ、
結果、ものすごい苦痛として感じることになるのです!
自己成長や自己変革の困難さに関して、
よく使われる例えですが、
「私たちは己を知るという、
しばしば苦痛を伴う過程を経るよりも、
無意味な人生を送ることのほうを選びがち」なのです!
そして人生中盤以降は、仕事だけにとどまらず、
子どもの問題(教育方針、進路、引きこもりなど)、
経済状況、健康などなど、様々なことが次々重なる時期。
しかしそれらの困難を前に、単に
「困ったことが起きたけど、仕方がない」で
済ませるのは、もったいないことです。
日本にユング心理学を広めた心理学者、河合隼雄氏によると、
この年代で、無意識と関わらざるを得ない大きな体験のひとつが、
「中年期を過ぎてからの恋愛」なのです!
つまり、不倫や浮気、そして、その背景にある
夫婦のパートナーシップに関する問題
(コミュニケーション不全、セックスレス等)は、
私たちが、自分の無意識とどうかかわるかの
テーマが含まれている、ということなのです。
ユング心理学の立場でいえば、
性的な関心、欲望、内側から湧き出る衝動などは、
無意識に存在する「内なる異性」が大きく作用しています。
仕事や社会、周囲からの要求・期待に応じた
ペルソナ優先の生き方を重視していくと、
生命の源からすっぽり切り離され、
私たちのこころは、瑞々しさやしなやかさを失い、
枯渇していきます。
(「中年期のうつ」も実は、これが背景にあることが
珍しくありません。)
同時に、夫婦・カップルが出会った当初、
ふたりをイキイキと結びつけていた、
愛に関わる要素も、
ふたりで育み続ける意思や意図がない限り、
次第にしぼむ運命をたどります。
そういった幾つかの危機が重なる局面で、
「こころ」は全体性を取り戻そうと動き始め、その結果、
無意識にある理想の異性像(「内なる異性」のイメージ像)を
パートナー以外の相手に重ねる現象が起きるのです。
独身の方が中年期に入り、突然、我をも忘れるような、
恋に落ちるのも、同様の現象です。
この投影の働きによって、私たちは、年齢を重ねる過程で、
いつの間にか遠のいてしまった、
瑞々しい感性、ときめき、恍惚感や官能などに、
「恋愛/不倫」で、再び触れることになるのです!
その要素は、いくつになっても、私たちに生きる勇気や、
明日への希望を与えてくれるため、
一度触れてしまうと、強い磁力によって、
それから逃れることができなくなります。
体験がドラマチックであるほど、
そしてパートナーとうまくいっていないひとほど、
次のような思いにかられるかもしれません。
自分と、今のパートナーとの愛は、どこかに消えてしまった。
そのかわり、新しく出会った「このひと」に、
愛を、再び見つけた…。
ときめきや歓びに満ち溢れるこの状態こそ、
長いあいだ求めていた本当の愛ある関係だ。
そして希望の見えなさが充満する、現在の生活は、
続ける意味がないのかもしれない――。
40代、50代になって、突然、このような衝動に突き動かされて、
ひとは、恋愛へ、不倫へとハマっていくのです!
(念のため申し上げますが、
不倫を肯定しているわけではありません。
そのことを、ここで強調させていただきますね)
このような状況になった時、大事なことは、次の通りです。
1、 結婚されているご夫婦へ:
不倫発覚は、ふたりの一大事!
でも、愛が無くなったわけではないことを決して忘れないでください。
そして、この関係は終わりにしたほうがいいなど、
短絡的に考えないことです。
恋に落ちてしまった側も、パートナーの不倫発覚で動揺している側も、
まずは気持ちを落ち着かせ、客観的にこの事態を眺め直すために、
相談相手を見つけましょう。
2、 パートナー以外の異性に心を奪われ、
今の生活なんてどうでもいいと思い始めているあなたへ:
これまで積み上げてきたものを大切にする意味で、
次の発想を持つことが肝心です。
「今の自分は、愛が欲しかったのだ」ということを、
まず、しっかりと自覚すること。
しかしだからといって夢中になってしまった相手が、
運命のひとに違いないという考えは、一旦保留にすることです。
つまり「愛ある人生が欲しい、という気持ちがあること」と、
「あなたの願いに、その相手が、ふさわしいかどうか」は、
切り分けることが大切です。
3、 どうしてこういう状態になってしまったのかと
呆然としているあなたへ:
中年期に強烈な恋愛や不倫をすることを通して、あるいは、
これまで積み上げてきたものを不倫等によって失う体験を通して、
ようやく自分の中にあった感情、情動、官能に気づくひとがいます。
これは人生前半に、充分な愛情関係を生きてこなかったひとに
見られる傾向です。
普段どんなに冷静なひとであっても、
このような恋愛に感電してしまうと、
「運命のひとと出会ってしまった」と、
大きく気持ちが揺さぶられますが、むしろ、
今のあなたにとって愛自体が必要であること、
つまりは、恋愛/不倫を通して、愛やエロスに代表される
生命や活力の源に、触れること自体に、真の意味がある
――という視点を持つことが必要です。
そのような視点を持つ本当の意義は、
時に身を焦がし転落するような恋愛や
夫婦を揺るがす不倫が、
なぜ人生半ばすぎてから起きるのか、の
一つのヒントになること。
そして、その視点を持ちながら、
パートナーと共に困難を生き抜くこと自体が、
自分の無意識(あるいは魂)と向き合うことであり、
それが、自己実現(個性化)に至る道(タオ)であるからです!
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